お正月でもかわりません
初売りにも福袋にも興味のない連休というのはどうにも暇をもてあます。初詣は一日に済ませてしまったし、ストリートコートは午前の内に行ってしまった。テーマパークへ行ったところで人混みに疲れてしまう。
知り合いこそいるが親も親戚もいない正月は心地よい怠惰が広がっていた。食べて寝て起きて、その日の生活のことだけを考えればよい。何もしないという選択を罪悪感なしに選ぶことのできる、ささやかな幸福。何でも正月だからで済ませてしまえる特別なひととき。
だから。というわけではなかったが、新しい年を迎えてからというもの、身体をつなげてばかりいる。恥じらいはなかった。この休みが終わればまたしばらく会えなくなるのだから。
ほころんだ粘膜を、ゆびが、ひろげている。
互いを傷つけないよう注がれた潤滑剤は氷室の体温にひとしく、火神の指をすべらかに動かす。厚く確かなかたちを持つ火神の中指の先が上向きのそこをかすめると、できあがった声があがった。第二関節と第三関節をまげて氷室の肉壁をひろげては執拗にこするのだから、氷室は広げた脚をさらに開かなくてはならなかった。欲する身体をどうにかして耐えている。焦らされてばかりの熱をはやく散らしてほしかった。
胸に抱いた白いあざらしのぬいぐるみに指が沈む。愛らしいあざらしを手荒に扱う気はないが、与えられる快楽を逃がしてやらなければとても耐えられない。指に翻弄されながら氷室は火神がいいというそのときを待った。
やりやすいよう腰に敷いたクッションで、恥部はあられもなく火神の眼前に広がっている。閉じていたそこに火神の指が居座り、恥じらいなく粘膜をひろげてみたり、ゆったりと動かして節くれ立った第二関節をこすりつけてみたり。氷室の内側を思うさま煽った。窄まりに近い浅いところを火神の指がいったりきたりして擬似的な挿脱を与えられれば、背が震えて蜜が跳んだ。火神の指が動くたびに開きっぱなしの窄まりを躾けられているかのようで、まるで形を覚えるように収縮をくりかえす。火神の指を締め付けるだけで何ともいえないふるえが腰から背へと上がっていった。
小賢しい指が粘膜をいいように弄くるのにたまらず、芯は珊瑚に染まって先端のふくらみはしとどに濡れていた。触れられないまま頭をもたげる茎のすっくと立ち続ける様は、色白な氷室の肌が薄桜に色づいているのもあって目に毒であった。ふくらんだまろやかなふくろの下で色の異なる指が秘所を暴き立てている様も含めれば、くらくらと背徳すら薫る。
裏返した手の、内で中指と人差し指をぐうっと開かれ、窄まりで感じていることを把握したかのように二本の指の根元を腹側の粘膜にすりつける。氷室はとろとろと声をもらし、みずから指を擦るため腰を揺らした。とどめとばかりに火神が二本の指の腹で粘膜をノックする。
「も、はやく……タイガ、もういいだろう」
「あー……なんつうか、もうちょっとな」
届く奥のやわらかな粘膜を指の腹で強く擦られる。火神が指を動かすたびにくちくちと濡れた、それも粘膜の内から聞こえる小さな響きに氷室は背をそらしてのけぞった。シーツに押しつけた足裏に力がこもる。
「たいが、も、く、っ……!」
溜め込んでいた熱が迫り上がり、氷室は欲求に従った。吐き出した反動で先端がふるふると揺れ、熱い精液がぼたぼたと下肢や脚にかかる。ぎゅうぎゅうと締め付けるそこは萎えることのない火神の指を馳走に何度も快楽を貪った。
どっと全身から汗が噴き出す。氷室は抱きかかえていたあざらしからようやく力を抜くことができた。火神はおまけとでもいうのか、うねる内をこすった。そんなわずかなもので、陰茎がぷるりと揺れる。
「あー……」
曲げた膝はそのままに。身体全体をベッドに預け、脱力する。左胸で心臓がうるさかった。乱れた左の前髪を指でそっと避ける。
指だけで達してしまうなんて。減るものはないしままあることだが、元旦の昨日から時間があれば身体を重ねている身である。打ち止めになってもおかしくない量を出しているし、火神の行為へ耐性がついていてもいいものだと思うのだが。
いつもなら眠いだけのだるい身体は妙に疼くし、相応に身体が仕上がっているのだとしたら。それはおもしろくないことだし、まず第一に入れろと散々求めているこちらに指しか入れないなんて。ふたりでしているのはセックスではなかったか。
力が抜け汗を流すだけとなった身体の、下腹部だけが燃えるように熱くほてっている。ひくんひくんとうごめき余韻に浸る内側から、ようやく火神が抜ける。遅い。
「タイガが入ってからいきたかったのに。これ以上いじくる必要あったか?」
「……タツヤが指で感じてるとこつい見ちまうっつーか。タツヤがえろいのがわりーじゃん」
「しておいてよく言うよ」
言葉通り氷室の痴態が悪いと思っているのか、見上げた火神は氷室の秘部に釘付けだった。はあ、と息をついて天井を見る。火神の言うことは支離滅裂であったが、その顔は決まり悪そうに赤くなっているので、これ以上突っ込むのは止めにした。いつもの得意気な、氷室を楽しむ顔はしていなかったので、火神でも抑えきれなかった衝動なのだろう。
あざらしを避難させた氷室はずるっと勢いをつけて身体を起こすとぬるりと火神に背を向けて膝をシーツに立たせ、いかにもなポーズで濡れた尻たぶをひらいた。火神も使った中指と人差し指で窄まりまわりの肉をこじあける。もとからそうだったのか窄まりがゆるんでいるのか氷室には見えないのでわからないが、たちまち指がぬるぬるとなまあたたかく濡れる。氷室はひらいた股の間から火神をさかさまに見上げた。
「ほら、つづき。するんだろ。ああもうローションでべとべとだ……。あとで洗濯しないと」
さかさまの尻の割れ目から収めきれなかった粘液がひとすじ垂れる。透明なそれは糸を引いてひいてするすると伸ばすだけ伸ばしたのち、シーツに落ちた。氷室が自分で窄まりをこじ開けているからだとは気がつかない。
火神は憑き物が落ちたようにすっと真顔になり、顔のほてりも引いていた。秘所に釘付けになっていると至った氷室のそれは早計で、実のところ眼前に横たわった氷室の身体をすみずみまで舐めるように見ていたが正しい。火神の指に食いついたまま達し、汗の浮いた紅の身体に流線を描いて飾り付けられた薄濁り。膝だけを立たせたものだから火神を食うそこばかりが鮮やかに、恥じらいなく姿を晒して。潤んだ灰青の瞳が浮遊する。まだ小さな口をはくはくと開ける屹立が腹に乗っているのがひどく扇情的で。いくら澄まそうとも貪欲な氷室の性欲を物語っているようにしか思えず、あまりに見入ったため指が抜けた。
えろいと言ったのだ。えっちなのはそちらだと指摘したにも関わらず次はこれである。むきだしの性器がふくれあがってずくずくと痛んでいる。溶けるような快楽が火神の身体の奥で渦巻いていた。火神の指を受け入れたためにちいさく開いたそこは珊瑚に色づいた粘膜をちらちらと見せる、恥知らずな穴だった。
火神を待つ氷室は尻を向けたまま枕元にあざらしを置き、産毛のようにやわらかな頭部をぽんぽんとなでた。つぶらな黒い瞳と三本ひげがキュートな水族館の土産は氷室が携えてきたもので。抱き心地よく犬ではない大きなぬいぐるみがあれば弟も夜こわい夢に飛び起きたときに落ち着けるだろうし、ひとりでトイレに行けると踏んだからだ。氷室の代わりにこの寝室で添い寝をしてもらおうと早速元旦の寝台に持ち込んだが、今に至るまでふたりの情交を見せつけられている。
枕に顔を埋め、火神がやりやすいように腰をくいっと上げて膝を開いた。欲の収まらない身体は性器の硬度を保ったままで、ぷるんと腹についている。
「なんつうか」
ひろげた窄まりに火神の指が触れ、氷室はいそいそと手を離した。むぎゅっと尻を鷲づかみに、火神の指が縁を広げて入っていく。頭を枕に沈める氷室は内に伝わる感触だけがわかった。中指と人差し指、の、ふたつ。望んでいたものが与えられず、氷室は眉間にしわを寄せた。指は驚くほど滑らかに肉をかき分け、付け根まで収まる。
「えろい」
「たい、タイガぁ? なんで、これ違うだろ。俺はやりたいと言いましたよね? 指じゃねえよ」
「なんつうの、やっぱ見せられると入れずにいられねえっつうか。この方が奥まで届くし、やりやすい」
火神なりの気遣いなのか、湾曲させた指は氷室の腹側の粘膜をつついては、ひらいた肉壁をかきわける。ひたりとくつけた二本の指の先が仰向けに転がっているままでは届かなかった奥の粘膜を暴き、小賢しく氷室を追い詰めていく。臀部に付け根まで食い込んだ手がひたりと押しつけられているというのに、内を弄ぶ指ばかりに意識が向いた。
火神の触れた直腸部が性器と成り果てたのか、意思とは逆に奥へ奥へと誘ってしまう。自ら腰を振って指を出し入れしたい欲求をどうにかして耐える。欲しいのはこれではないというのに。
「足りねえよなこれじゃ」
「あーも、や……っ、あ、っそ」
薬指も加わり、いよいよ火神の指は氷室の後孔をひろげ溶かすために律動する。性器とは異なる硬さのそれが執拗に氷室の肉壁を擦れば、粘液がぐぷぐぷと泡立ち、音を立てた。自らの後孔で響く卑猥な水音が性交ではなく指によってもたらされていることに、羞恥で耳が染まった。指というのはどうにも慣れない。セックスの下準備に用いるのならば構いやしないが、こうして指だけの行為が続くとひとりだけみっともなく高められている気がして腹立たしい。半端に理性を残されながら快楽に浸るのはどうにも嫌で。
性器を求めるが故にわざわざ深く迎え入れる格好を取ったというのに、忌避した指を与えられるとは。喘ぎ混じりの訴えでは火神を煽るだけで、かといって氷室から火神の指を抜くことはできない。
出入りする中指の先が腹側の粘膜をほどよく擦るのがもどかしく、氷室は喘ぎながら枕を握りしめた。触れられないままの屹立はすっかりできあがって、突かれているわけでもないのに頭を振ってはぼたぼたと蜜をこぼす。こんなもの、性器で突かれればすぐに果てがくるというのに。
「ふっざけ、そこ、ばかり、いじるな……」
「タツヤのなか触ってるだけできもちいんだ。ぐねぐねしてあったけえ。タツヤもわかる? 俺の、ゆび」
「いやでもわかる、から、やめろ。ノーフィンガーっ……ギブミーユアファッキンディック……!」
擦り上げるのをやめた指の先がつんと張った膨らみを見つけ、押しつぶす。氷室でもそうとわかるほど内が締まり、腰から下の汗腺からどっと汗が噴き出した。頭に釘を打ち込まれたかのような鋭い快楽が走り、膝がわらいだす。ぷしゅりと性器を揺らして吐き出したのは精液なのか先走りなのかわからない。
「あぁああ」
「あ、締まった。すげえ締まる、ここ、いい?」
宝物をみつけた子供のようにそこばかりをぐにぐにと潰すので、氷室は喉を嗄らしながら大きくこくんと頭を振った。口を閉じきれずに涎がとろとろと枕を汚す。掴み続けている枕は皺が寄って、指先は力を込めすぎて白くなっていた。全身の制御を掴まれたように考えた先から思考は溶けるし性器はどろどろと射精を続ける。
もういけない。つうかダメだこいつ。
氷室は意地で自ら尻を押しつけると、手首ごとくわえ込む勢いで思い切り締めてやった。内からかかる圧と、突き出された尻。汗をかき、血色のよいふたつのまるみは剥いた白桃を思わせた。触覚と視覚の暴力的な調和にむぎゅむぎゅと尻を揉んでいた火神の手も止まる。
「うぁ。えっろ……」
「タイガ」
兄はしゃべる尻ではないので枕元へ顔を向ければ、汗やら涙やらでぐしゃぐしゃの顔をしかし凛と怒りによって整えている。枕に耳を乗せ、どうにかこちらを向く兄の面にずくずくと性器が痛んだ。
「新年から、俺を、怒らせるなよ。……とっととぶち込め」
息も絶え絶えにどうにかそれだけを吐き捨てると、氷室は火神の鼻先に中指を突き出して。
「違うか?」
「あーーーーーーたっつつつやぁあああああ!!!!!」
それは火神にとって猛烈なラブコールだった。叫ぶやいなや指を抜くとぽっかり開いた肉の穴へ滾る先端を滑らせ、ぐっぐっと進める。直前まで指をみっしり埋め込まれていた肉筒は火神を少しの抵抗とともに難なく受け入れた。
突然の奇声も付き合い慣れている氷室が驚くことはなかったが、引き抜かれた拍子に力が抜けたためまともに火神を受け止める羽目となった。どうにかして膝だけを立たせる氷室は肩から先がシーツに沈んで火神の抽出を受けるだけとなっている。
「んっ。んんっ。あ、はぁ、あ」
尻に腹部が当たってぱつんぱつんと音を立てている。氷室は顔を隠すように枕へ沈んだ。待ち望んだ屹立が氷室の内をひろげ、擦り、貫いてはふるえている。下肢が己のものではなくなったかのようにぐつぐつと煮え、セックスで思考が塗りつぶされていくのがたまらない。
「たつやぁ、きつくね?」
「っ、あ、できるなら、はやくしろ! 昨日から何回やってるんだ、サルでもできることだぞ!」
「えーでもいれたらおわっちまうじゃん。やっぱーこういうのはーゆーっくりたのしむのがいいんじゃねえ? すろーせっくすってゆうし? ぶらじりあんせっくす? わっくす?」
「正月ボケで頭も雑煮になってんじゃねえだろうな」
鬱憤を込めて吐けば内に居座る弟が嵩を増す。拡げられた粘膜の快感に眉頭を寄せちいさく喘いだ。思わぬ小休止に氷室も呆れる。
「……これでデカくするあたり相当だぞ?」
「俺、タツヤフェチだから……。激しいタツヤが好き、ってことにこの冬気がついたぜ」
「俺は温厚でいきたいけどな。ほら、入れたんなら好きに動け。俺を喜ばせろよ」
伸ばした手できゅっと締まった火神の尻をぺちぺちたたけば、鞭を受けた馬のように鼻息荒くゆかいに意気込む。
「すげえいっぱい喜ばせる、です!!!」
「あーがんばれがんばれ。正月からつかれる……」
腰をつかまれ、尻を揉まれ、いきり立った性器が何度も粘膜を擦り上げては突くのを、氷室は目をつむって与えられる快楽の波に浸った。前立腺に当たらなくとも狭い肉筒をみっしりと塞がれるのがいい。自分では届かない場所までも弟に貫かれている。ここで感じることが是と覚えた粘膜で弟を悦ばせるのも、弟で悦びを得るのも性器の結合ならでは。突かれるたびに全身を揺すぶられ、混じった汗を受けて、快楽を司る部分を掌握される。やはり指だけで得られるものではない。
何度目になるかわからない果てを氷室は迎え、火神の抽出を受けながら全身をこわばらせて吐精した。敏感な体内を擦られ、ア行の嬌声を上げることしか叶わない。充血しきった性器ばかりがぶるぶると揺れ、ドライオーガズムすら迎えている。
一度性器を抜かれ、仰向けに転がされる。曲げていた膝はすっかり痺れてしまっていて、曲げる必要をなくしてもそのまま上げていた。その膝裏に火神が手を当て、まだ吐精を迎えていない性器がめくれた縁をひろげてずぷずぷと入ってくる。それだけで氷室は溶けるようだった。
「タツヤ、つづけてい?」
ぬかるみを穿ち続ける火神に頭を縦にぶんぶん振ることでどうにか答える。問う前に挿れてしかも動いているしどうせ横に振ったところでやめないだろうし。氷室は己にのしかかる火神を見ながら、思うさま揺すぶられては喘いだ。弟ときたら熱中しすぎて氷室の膝を肩につけるほど脚を広げさせ、がつがつと性器を打ち付けている。
氷室は弟の陰茎が体内をぐちゃぐちゃに掻き混ぜる様に酔いながらふと手を伸ばし、完全に重ならない火神の根元を中指と人差し指で挟んだ。それはローションと氷室の粘液でどろどろにぬめり、氷室の指の間でせわしなく動いている。そうしてすぐそばにある己の肉に触れた。弟が収まっている境目と己の肌、ひくひく脈打つ弟を確かめるようになでまわす。
「タツヤ、そっ……ゆの、えろっ……から!」
氷室の意図に気づいた火神が行為に反して今更のような純朴さではずかしがる。氷室は喘ぐ合間にほほえむと手を離してやった。シーツの上を脱力した腕が振動によってすこしずつずれていく。
忙しなく余裕のない抽出を受け、弟の果ての近さを思った。手を伸ばし汗でぐっしょりと濡れた前髪を避けてやれば、紅の眼差しはまさしく氷室に向けられていて。獲物に食らいつく獣の、快楽と興奮の混じったそれに甘やかな情が混じっている。
「タイガ」
「ん、ん?」
「すきだよ」
髪から離した手を首に寄せる。ぱちりと一度、汗を払うように閉じた目蓋が見惚れるほどで。ぐっとひときわ深く貫かれる。息ができなくなる刹那、熱い種が弾け流れて、氷室もまたどろどろと自身の精を吐いていた。つぶれるように重なった互いの腹の間で氷室の精が広がっている。ぶるる、と氷室の中に精を注ぐ陰茎の揺れすらわかった。覆い被さる火神の肢体からぼたぼたと汗が雨のように落ちた。
オルガズムは次世代へ種を繋げる事が出来た褒美としての死である。言ったのは誰だったか。
まだ萎えていないものが感慨なく抜けていく。ベッドに座り込んだ火神は前髪のべったりと張り付いた額を腕でぬぐった。
「あっち……きつくねえ?」
「ん……。よかった。出し過ぎたけど」
だらだらと身体を起こし、向き直る。汗やら何やらで身体中べとべとだった。火神が熱のこもった視線で氷室を待っている。ご褒美がもらえるかどうか胸を弾ませる子供のように。
「よろこばせられらる、れ……たか?」
汗に構わず頬に、次いで唇に重ねるだけのキスをする。塩辛くなった唇もたまにはいい。日本語が危ういところも今日は大目に見ておく。
「よく健闘した、かな」
濡れた頬に手を寄せ、なでてやる。びっしりと肌を覆う汗は冷え始めていて、火神は氷室のぬくもりを求めるように頬を寄せた。空いた指先をシーツと肌のあいだに潜り込ませれば、奥まで注がれたものがようやく垂れてくる。
「こっちも」
組んだ脚の付け根、もとい氷室が指をあてているそこへ火神の熱っぽいまなざしが注がれる。腰を浮かせていたため、慎みを込めてすぼめたそこからこぼれた種が指を伝ってシーツに染みを作っていた。期待に応えてぱかりと脚をひらけば、真顔でひとつ。
「舐めてえ」
「やめろ」
すぐさま脚を組んで隠した。このまま広げていてはあーだこーだ理由をつけて、もしくはつける前に吸い付くだろう。氷室は肩を落とした。
「タイガのそれはどうにかしないといけないな」
「タツヤにしかなんねえぜ。それならよくね」
こちらが正論と堂々のたまう火神に一瞬それならいいかとも思ったが、そういう問題でもないはずだ。氷室の体内にこそあれ分泌物は紛うことなく火神の物であるし、弟にこれ以上特殊な趣味を許す度量の深さは氷室にはない。傍らに避難させていたあざらしを掴んで落ち着きを得るため頭をなでる。
「やっぱりどうにかしよう」
「いいじゃねえか、掃除もできて一石二鳥ってやつ」
「掃除になるのかそれは」
「全部吸うから掃除じゃね?」
「つづきするぞ」
「おう!!!」
詳細を聞きたくない氷室によって与えられた二回戦に喜び勇んで火神が飛びつく。秒で迫る体躯にあわてて放り投げたあざらしは体毛を濡らすことなくぽーんと端へ避難した。この場合床へ落ちてしまった方が彼のためではあったろう。
冷えた汗の滑る肌で互いの熱を求めあう。まだ昼だ、まだ昼だけれど、風呂に入る頃には夜になっていることだろう。意味こそ違えど寝正月と思いながら、氷室は弟を抱きしめた。